医者と患者の間には

医者と患者の間には

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内科医師 松谷久美子
医者と患者のあいだには深くて暗い川がある。

私たち医者は短い診察時間で、検査結果や、検査の意味、数字の見方について何度も何度も同じ説明をしている。
患者さんに理解してもらおうと努力しているので、通院1年ぐらいたっていれば、だいたい血液検査、薬の内容などわかってもらえたと思っている。
血糖、HbA1cの意味などももちろん。ところがあるとき、ある患者さん(通院歴5年)が、ほとんど耳が聞こえず、はいはいと答えていたということがわかったり(晴天の霹靂)する。
私の声だけは大きいので良く聞こえるが、S先生は上品すぎて何いってるのかわからないので私にあったら聞けばいいやと思っている(どうして前医と同じ説明をいつも聞きたがるのかやっとわかった)と言ったりする。
また説明が長すぎ、医学用語が多く、言っていることは聞こえるが、意味が理解できないと言う人もいる。
であるのに同じ説明の仕方をずっと続けていたりする。
1日2回しか食事をしない人に3回インスリンを打つ指示をしていることもある。
私たちの説明や治療は、風のうわさのように患者の耳をするりとすり抜けて、暗い川にむなしく流れていたのだ。
ああ。そんなことがたくさんある。見えないけれど確かに、深くて暗い川が滔滔と医者と患者の間を流れている。

医学は科学的側面と患者の人格的霊的側面の両方をあつかう。
我々古い世代の医師は科学的側面についてはよく勉強しているが(もちろん満足はいきませんが)、患者一人一人の性格や考え方、感情に沿った治療の勉強はしたことがない。
だからいつも、診察室での話しはじめは悪い話で始まり、終わりもやはり悪い話で終わってしまう。
どうしてこんなに血糖が高いのか?どうしてこんなに体重を増やしてくるのか?誰だってそうしたいと思っているわけではないのに、bad newsは続く。
カルテは悪い話で埋め尽くされ、これでもかと患者を傷つけてしまう。
いつのまにか患者の頭は垂れ、医者の腹は持ち上がる。もう、来たくないよね、そんな病院へ。
だからいつまでも我々は同盟を結べないのだ。

どうしたらお互いの間にある暗い川に橋を架けられるのだろう。
それができたら、お互いの忌憚無き相互作用の結果、もっともっと患者のみならず医師の健康も増進できるような気がするのだ。
私は私のやり方で、笑いの手すりを共感の橋につけて少しずつ構築していきたいと思っている。

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